人生 あ・ら・か・る・と 年齢を重ねてきた今、昔から大切にしていた記録、メモ、本、レコード、などから、これまでの人生を振り返るエッセイのコーナー「人生あ・ら・か・る・と」です。 掲載は月1回1日。筆者は4部のKOさんです。どんな話題が出てくるか、お楽しみください。 2025/03/01 第1回 「木下惠介監督の視点」 もう40年余り前の話です。 私は、タイル工事会社に勤めておりました。ある時、木下惠介監督が、別荘を新築することになり、私の担当工事会社に発注。場所は、西気賀の寸座ビラージ(遠州鉄道の所有地)の道路を挟んだ20m程の小さな山のミカン畑を切り開いた場所でした。 工事が8割程度進んだある日、現場監督から、その日、木下監督が視察に来られることを知らされました。暫くすると、初老の小柄でやや色黒の紳士が現れ、建物全体を眺めた後、玄関付近に移動し、案内役の現場監督に何か話しておられました。そして、今度は建物の横の水道設備やガスボンベ置場小屋のブロック積工事を見られ、また何やら話しておられました。 木下監督が帰られた後(寸座ビラージに2~3日滞在)、玄関の焼杉のドア(片開き2m、高さ2.5m位)の取り換え、1階トイレの窓の額縁が太すぎる、各部屋のドアの取っ手は、ハワイのなんとかホテルの取っ手が気に入っているので見に行って付替えて欲しい、水道設備やガスボンベ置場小屋の高さを下げてほしい(浜名湖の対岸の山並みが見えにくいという理由)等の要望があったと現場監督から聞きました。 木下惠介監督と言えば、浜松市出身の著名な映画監督で、黒沢明、小津安二郎、成瀬巳喜男等と並び称される社会派の巨匠です。「カルメン故郷に帰る」(日本で最初のオールカラー作品)「二十四の瞳」「喜びも悲しみも幾歳月」等々話題作ばかり。 現場監督の話を聞いて感じたことは、木下監督は全体のバランスを重視されているのだなと。玄関ドアは、建物が洋風建築なのでアンバランスという事なのだと思いました。 やはり、多くの作品(生涯49作品)を撮影された木下監督の視点は、ファインダーを覗いた時、如にきれいな違和感のない映像を創るかに尽きるのでしょうか。 最後にもう一つこの別荘工事でのエピソードを。 外構工事もほぼ完成し、庭に日本ではあまり見かけない陶製ベンチが設置されていました。現場監督に聞くと、スペインのマジョルカ島から送られてきたベンチだそうで、腰かけてみようと近づいたところ、現場監督が飛んできて、「ダメダメ!割れていて、今、接着剤で張り付けたところだから…」と。その後どうなったかは、判明しません。 今回はここまでといたします。次回は、後日談を…。 記事一覧を見る